本日の流れです。
まずは3週間も前の授業(もう忘れた?)の復習をかねたウオームアップから。詳しくは前回の資料(このウェブサイト内)を観てください。
前回の授業では、火山の噴火を(1)溶岩流を主とするもの(ハワイ式噴火など)と(2)爆発的噴火(噴煙柱と巨大な火山灰の雲の発生)の 2つにまず大別し、さらに、噴煙柱の高さにより、火山噴火は古典的には4つのタイプに分類する事ができると学びました。
この古典的な4タイプのうち、前回はハワイ式噴火(溶岩流を主とする噴火)まで学びましたが、今日は残り3タイプのうち、ハワイ式噴火に一番近い ストロンボリ式噴火を観てみましょう。
ストロンボリとはイタリア・シチリア島の北に浮かぶ小さな火山島の名で、この火山の「噴水のように溶けた溶岩を噴き上げる」噴火様式から命名さらたのがストロンボリ式噴火です。
ほぼ毎年のようにもう何十年も連続して噴火しており、近世のほか、古代も中世にも同様な噴火活動と時期が頻繁に見られたため、「地中海の灯台」と呼ばれて来ました。
ちなみにブルカノ式噴火はストロンボリ島の南にあるVulcano島に由来した名前で、イタリア語でも火山の事を vulcano と言います。このイタリア語が16世紀に他のヨーロッパ諸国に広まり、火山を表す英単語「Volcano」も生まれたとされています。
日本でもストロンボリ式噴火はよく見られます。
下は 1986年の 伊豆大島(カルデラ内の三原山)の噴火の写真ですが、右をよくみると、小規模ですが、確かにしてますね。左側だけをみるとハワイ式噴火(主に溶岩流)ですが。
しかもこの時、三原山で噴火が始った数時間後に、今度は外輪山の北西部に割れ目が生じ、そこから火柱が血しぶきのように上がって溶岩が噴出しました。これを 割れ目噴火 と呼び、1986年の大島の噴火で日本でも有名になりました。世界的にみると、割れ目噴火はアイスランドでよく起こる事が昔から知られています(ここも玄武岩質のマグマをもつ火山です)。
また、ストロンボリ式噴火に代表されるように、溶岩が噴水のように高く噴出すと、ちぎれた溶岩が空中で放物線を描く間に冷え、その時に形が「柔らかい 餅 が 伸びるように」紡錘形になります。そうやって熱いまま(大抵、表面は固まったまま)飛んでくるこの物体を 火山弾 と呼びます(前回の授業でも学びましたね)。
小規模の噴火だと、火口から2kmくらいしか飛んでこないのですが、噴火の規模が大きくなると、飛距離も火山弾のサイズも大きくなります。ちなみに小さい火山弾でも当たったら致命傷ですから、火山の近くに居る時に噴火が始まったら、安全な場所に直ぐに非難して下さい。
下の写真は大島南部の海岸付近で見つかった火山弾です。2m以上あります(写っている2人とも背が高いです:左は筑波大学・准教授の物理学者ジェームズさん、右は千葉大の学生さん)。
では次に爆発的な噴火についてみてみましょう。爆発的な噴火は、先の古典的な分類でいうと「ブルカノ式」と「プリニー式」の2つに相当しますが、この分類は噴煙柱の高さしか考えていないため、予想される火山災害と関連付けにくいという欠点があります。このため、この授業では、爆発的な噴火の際に見られる、火山の形態変化の現象から7つ(噴煙柱の形成と火山灰の降下~、マグマ水蒸気爆発)を取り上げ、その一つ一つについて火山から爆発的に発生する物質(災害の元)を観て行きます。これらの現象の多くが、「熱い火山灰・軽石やガスの破壊的な横殴りの流れ」(火砕流とサージ)を伴います。
まずは火山災害のなかでも広く知られている「火山灰の降下」についてです。
これは主にブルカノ式とプリニー式噴火の時に多量に発生しますが、ストロンボリ式(次にハワイ式)でも比較的少量ですが発生します。
このブルカノ式・プリニー式の噴火ですが、粘性に富み、火山ガスを多量に含んだ 安山岩質(次に流紋岩質の)マグマの噴火に伴うことが多いです。軽石を作るような、冷えると白っぽい・色の薄いマグマです(これに対し、玄武岩質の冷えると黒っぽいマグマは粘性が低く、ガスをあまり含まないために 溶岩流や火山弾を作り、ハワイ式・ストロンボリ式噴火を起こしやすいです)。
噴煙中が高くまであがると、大体高度15km~25km位で横に かさ状 に広がります。ブルカノ式とプリニー式の噴煙の高さはこの中間の20kmを超えるかどうかで、便宜上区別しているのです。
どうして高いところで噴煙が横に広がるのかというと、以下の図のようになります。
火口を飛び出す噴煙は爆発時の推進力で上へ向かいますが、一直線に向かうのではなく、渦を巻くようにあがるのです(上の図で、噴煙柱の周りに多数の渦巻きが発生していますね)。
この時、周りから暖かい(火口の上・その直ぐ周辺で暖められた)空気を取り込み、更に軽くなり、比重(密度)が下がって更に浮きやすくなります(浮力が上昇します。ちょうど熱気球のような感じです)。
その際、空気抵抗や渦の生じる更なる浮力の影響などもあり、浮力と重力がつりあうと、噴煙は横に広がり始めるのです。火山灰など細かい粒子はこの釣り合い効果の影響をモロに受けて更に横に広がります。この時、偏西風など上空の強い風の影響を受けると、噴煙は風下のほうに伸び、非対称な分布をするのです。
そうやって温度も冷えて、噴煙の浮力が弱まってくると、火山灰などの粒子が重力に負けて降下しはじめます。
こうやって噴煙の傘から振ってくるものには以下の3つがあることは前回学びました。
安山岩質のマグマなど、ガスを多量に含んだマグマは、地下(火道)だけでなく、空中でも 気体が溶岩から抜ける時などに気泡が多量に発生し、軽石を形成します。二酸化ケイ素が多いので、白っぽい色をしています。軽石が空中で衝突しあったりして粉々になったのが火山灰です。
ですから「灰」(すす、炭素、焼けかす)ではない のですよ。
4年前、この話をあるアメリカの大学の日本校(東京周辺に在住の欧米人を対象にした講演)で話したら、彼らはこの事に一番ビックリして、「そんな馬鹿な!」という顔で私を見つめ返しました。英語でも火山灰を
Volcanic Ash (文字通り火山灰)
と言いますからね。
そこで、火山灰の拡大写真を見せたら、皆 納得してくれたのです。
そう。灰ではなくて、鉱物(Mineral)で出来ているんです。
実際、深成岩を見ると、花崗岩でも閃緑岩でも結晶から出来ているのがわかります。火山岩はマグマが地表などで急速に冷えて出来るため、結晶が大きく成長する時間が無いのですが、それでも上の写真のように、ルーペや顕微鏡で見ると、ちゃんと鉱物の結晶が見えるんです。
それからというもの、この時の講演会の参加者のアメリカ人・イギリス人などにたまに会うと、
「火山灰は灰じゃないんだよね。鉱物なんだよね。ちゃんと覚えているよ。」
と 言ってくれます。皆さんも覚えて(家族などに)説明してあげて下さいね。
なぜって、それを知らないと、以下に述べるように、大変な事になるからです。
火山灰は 遠く離れたところにも降って来ます(噴火の規模・風向きにも影響されますが)。
例えば東京が 特に注意しているのは富士と浅間山。富士山の100km風下にあるのが東京なのです。
もし、江戸時代に実際に起こったように、多量の火山灰が東京に降ってきたら?
「芝生で寝転がれない!」「雪かき ならぬ 灰かき を するのが面倒!」
ではすみません。
実際、灰かきをしないと、数センチ積もっただけで、屋根が崩落する危険が高くなります。雪と違い、灰が積もると重さが全然違いますからね。鉱物ですもん!
あと、川 や ため池に 火山灰が降ると、硫黄などの成分が溶け込んで飲めなくなります。
また、火山灰を多量に吸うと、肺の中でドロドロのセメント状になって、灰の病気になり、直ぐに亡くなる方もコロンビアでの噴火の際などに多数出ています。少量でも呼吸系疾患を引き起こしかねません。
あと、送電線も(外に線のつなぎ目、端子がむき出しという事もあり)、火山灰にやられやすいです。端子やむき出し線・金属同士の隙間に火山灰がつまると(ちょうど雪が詰まる感じを想像して下さい)、そこで電気がショートし、変圧器が壊れて送電がストップするのです。
1年くらい前に新聞で読んだのですが、車も同じように火山灰に弱いことが「都市での火山災害」の研究グループから指摘されています。電気配線の故障だけでなく、後で航空機の被害の説明で述べるように、エンジンなどに火山灰が入ってくるためではないかと思います。
さて、もっと少量の火山灰でも 直ぐにやられてしまうのが、我々の家電機器なのです。特に携帯など、精密機器ほどデリケートに出来ていて、基盤の導線の間隔も密で狭いので、ちょっと火山灰が埃のように付いただけで壊れてしまうのです。
なぜかというと、繰り返しになりますが、火山灰は鉱物。その多くが導電体(電気を通す物質)だからです。
目に見える火山灰も、かすみのように空中を漂う火山灰も、健康悪化・インフラ破壊・電気通信故障などの被害を起こすので怖いのですが、人の視覚だけでなく、喉や嗅覚では直ぐに気付かないような微細な火山灰でも、知らぬ間に電子機器を壊したり、健康を害することがあります。
例えば、昨年2月位から メディアなどで大きく取り上げられている 大気汚染物質の(黄砂などに伴う)日本飛来ですが、皆さんもPM2.5という言葉は覚えていると思います。これは直径が2.5ミクロンのエアロゾル(空中を浮流する固体の微粒子・煙霧粒)という意味です。上の写真はこれをスギ花粉や頭髪(直径0.1ミリ)と比較したもの。火山灰はこれらの全てのサイズで起こりますし、硫黄などのエアロゾルも発生します。
これらが精密機械の基盤、特に集積回路・ICチップの内部に付着すると、そこに電気が流れるようになるため回路がショートし、故障の原因になります。付着する粒子が大きいほど、導線の間をまたぐ距離が大きくなるため(チップの内部は数10ミクロン程度)、ショートしやすくなります。タバコの煙の粒や、それが集まって出来たヤニがそうです。火山灰も同じような挙動をしますし、微粒のPM2.5であっても、大気汚染の深刻な国では精密機械の故障の原因になっています。
中でも火山灰や他の埃・エアロゾルに敏感なのがコンピュータです。多量の集積回路(ICチップ・CPU)を配したマザーボード・電子基盤を使っている事、構造が複雑である事もありますが、コンピュータの場合は冷却用の換気口があったり、さらには(デスクトップだと特に)ファン(換気扇)が付いていて外気を取り入れて冷却するように出来ているため、埃・ダストだけでなく、火山灰も吸入しやすいのです。実際、90年代の雲仙の噴火の際は観測所などでコンピュータが故障しました。
皆さんもよく「コンピュータがフリーズする。」という経験をされていると思います(古いタイプのコンピュータほどフリーズしやすかったですが)。これはどうして起こるかというと、先ほどの火山灰の導線付着の所で説明しましたように、静電気などで荷電したダスト・埃などがコンピュータ内の導線に付着して、ショートするからです。特にショートを起こしやすいのが(炭素を含むため、導電体でもある)タバコの煙です。アメリカ・日本を始め、世界中の多くの国・都市で禁煙の場所(公共の場所、会社・レストラン、学校など)が増えているのは、呼吸系疾患予防・肺がん予防など健康の目的もありますが、コンピュータなどの精密機械のトラブル・故障率を減らし、国のビジネスや経済を守る事に大きな理由があるのです。
最近は技術の進歩で大分コンピュータのフリーズする頻度が減りましたが、PM2.5など微粒のエアロゾルへの対策はまだやっと始まったばかりで、ましてや更に電気を通しやすい火山灰への対策は非常に遅れています。
火山灰対策の技術開発はいつになるのか解りませんので、当分の間、常にデータのバックアップをする事をお勧めします。
地震や火災(ひょっとしたら津波も)を考えると、自宅・仕事場のほか、安全な(複数の)場所に保存したほうが良いですし、USB・SDカードなどの磁気ディスクの他、DVDやCDなどは熱に弱いので、その辺も考慮したほうが良いと思います。クラウドにアップする、というのも一つの手ですが、サイバー攻撃やハッカーのリスクもありますからね(私はこの理由で殆ど使っていません)。また、写真店チェーンの中には、古い写真(プリント・ネガ)やデジカメで撮った家族の思い出の写真などを安全な倉庫やサーバーに保存してくれる所が最近登場し、人気が出ています。サーバーは全国数箇所に分散し、一箇所がやられても他が生き残るという想定だそうです。
ちなみに日本政府の膨大なデータをバックアップしたものは沖縄に保存されています。火山の数が本土と比べて極端に少ないからです。
次に考えなくてはならないのが航空機の被害です。火山噴火で噴煙と火山灰の飛散が大きくなると、火山周辺の空港だけでなく、遠く離れた(火山灰が風で飛来した)空港も閉鎖になります。2010年4月にアイスランドの火山が噴火し、ヨーロッパの空港が数日間閉鎖になり、空の便が大混乱したというニュースは皆さんも覚えていると思います。
この噴火の全容と被害については、以下のウィキペディアのページにまとめてあります。どうも割れ目噴火に始まって、その後 爆発的な、噴煙中を伴う噴火に推移したようですね。
なぜ飛行機、特に旅客用・運送用の大型航空機が火山灰の影響を受けやすいかというと、主に2つの理由があります。
まず、旅客ジェット機の飛ぶ高さですが、大体高度10km位です。この高さだと偏西風に乗れるので、東回りだと風に乗ってスピードも燃料も節約できるのです。しかし、この高さは先に学んだ、火山灰のかさ状の雲の直ぐ下にあたります。火山灰が(なかには軽石など)大きい粒のまま高密度で降ってきますし、雲の中では火山灰同士がぶつかって静電気が発生し、雷が生じることもあります。軽石や火山灰は機体を引っ掻いて傷つけますし、フロントガラスは火山灰・軽石の傷と曇り・付着をモロに受けて、見えにくくなります。更には、噴煙・火山灰・ガスは機体にも入って来ることがあります。
中でも致命的なのがジェット・エンジンへの影響です。この火山灰がジェットエンジンにはいると、エンジン内の温度が1000度以上あるために、火山灰(鉱物)がドロドロの飴状に溶けて、エンジンのなかに溜まり、詰まらせるのです。ガラス(石英質、つまり二酸化ケイ素で出来た岩の砕けた砂が原料)が溶けるのが1000度近くですから、ちょうどガラス細工の職人さんが溶かした赤熱したガラスのような感じです。そうやって溶けたガラスがある程度溜まると、エンジンが故障したり、停止したりするのです。
また、大きな火山噴火は異常気象を地球規模で引き起こします。
また、大きな火山噴火は異常気象を地球規模で引き起こします。
そのよく知られた例が1991年のピナツボ火山(フィリピン)の噴火です。
この噴火では火砕流も発生し、近くにあったアメリカ空軍のクラーク基地が壊滅。噴煙は成層圏に達して、数ヵ月後には地球を取り囲むように(希薄ですが)エアロゾルの層が地球を取り囲みました。そうやって、気温の異常が1~2年ほど生じたのです。
上の図を見ると、北極地方や中東、中国、南半球の一部などを見ると、確かに気温が下がっているのですが、逆に日本・ヨーロッパのように、気温の上昇した地域もあります。
このように、実際には(地球の気候システムや大気の循環は複雑ですから)気温が下がる地域と上がる地域が生じるのです。このため、「地球の寒冷化」をもたらしたというよりは(全体的には確かにそうなのでしょうし、歴史的にも寒冷化が報告されていますが)、長期的な(数ヶ月から1~2年単位の、温暖化も含めた)異常気象が地球の大部分の地域で引き起こされた、と言ったほうが良いと思います。
次に 火砕流 と サージ を伴う噴火 (6つの噴火)に ついて です。これらの噴火の多くが先述の降下性火山灰を伴います。
火砕流と同様、よく使われる用語にサージがあります。火砕サージとも呼ばれます。簡単にいうと、火砕流は(サージも含めて)煙を伴った高温の火山灰や軽石が地を這うなだれのように高速に襲ってくるというものです。
サージはよく「希薄な火砕流」とか、「ガスの多い、低温火砕流」と言われる事が多いですが、火砕流よりも速度が速く、到達範囲・破壊範囲も広く、横殴りの暴風で家屋を一瞬に吹き飛ばしたり、森林の幹を投げ倒し、大枝も鋭利なナイフで切られたかのように破壊されます。サージが襲った跡には細かい火山灰が薄く積もっているので(これに対し、サージを除く、本質的なの意味での火砕流は、厚さ数十m以上、大噴火だと100m以上の粗い火山灰や軽石を厚く積もらせるので)、細かい粒子やガスを含んだ「希薄な」という言葉が使われたのでしょうが、サージの破壊力・殺傷力は絶大です。
また、「低温・・・」というのも誤解を招く言葉で、火砕流の温度が500℃~900℃の事が多いのに対し、サージは500℃どころか、400℃にも満たない場合が多い(まれに100℃以下の物もある)という事です。しかし、400℃といえば、我々の衣服も家屋も発火してしまいますし、200-300℃でも調理オーブン内の温度。しかも鋭い火山灰を多数含んだ熱風が衝撃波のように拘束で襲ってきます。ですからサージでも破壊力・殺傷力と言った被害は かなり強いのです。
火砕流とサージ、その挙動はかなり違うので、対処法・避難法もずいぶん違って来ますが、それでも多くのメディアや書籍に混同して記述してあります(あるいは2つを区別せずに一緒に合わせて「火砕流」と記載してあります)。本日の授業の一番の目的は、火砕流とサージの(共通点・違いを含めた)正しい認識をしてもらい、家族・知り合いなどに正しく伝えてもらうことです(大事の時に教えても、もう遅いです)。来週のビデオ鑑賞・レポート課題にも深く関係しています。
サージは火砕流の一部が(幽体離脱のように分離して)発生する場合が多いので、火砕流が発生するメカニズムを幾つか観て行きましょう。
まず、一番有名(昔から知られていたもの)は、噴煙柱が上空に十分上がる前に崩壊し、火山灰・軽石を多量に含んだ噴煙などが落下して地表(火山)に達し、そのまま地表(斜面)を駆け下りる、というものです。この火砕流の流れが重力や、後から噴火によって更に加わる火山灰・軽石などによって、さらに早くなり、時速100キロを越すもの、中には音速を超えるものもあったそうですが、こういった高速の火砕流はかなり大規模な噴火(例えば、カルデラ崩壊時)に伴うものです。
なぜ噴煙中が崩壊するかというと、吹き上げる物質の重さ(密度)・量と噴火の勢いの問題です。下の実験のように、勢いが良いと噴煙中が発達してかさ状の雲を作りますが、勢いが弱いと噴煙中が崩壊して、地表に達するのです。まさに火砕流のように地を這う 挙動をします。
この噴煙中の崩壊の様子が見事に記録されているのが、モントセラト島の1995-2003年の一連の噴火活動の最初の大噴火です(下の写真は1995-1997年のもの)。ちなみにモンセラが正しい発音に一番近いのですが、日本語ではいろんな表記があり、モントセラート島と読んだりもします。
来週DVDで観ますが、この火山の場合、噴煙中がただ崩壊するのではなく、噴水のように四方八方に広がるように見事に壊れます。
とはいえ、地表に達すると四方八方に火砕流を発生し、大被害をもたらしたので、やはり起こって欲しくないですね。
2番目のメカニズムは、溶岩ドームの形成と崩壊に伴う火砕流の発生です。
モントセラート島で何百回と発生した火砕流の大半がこのタイプです。溶岩ドームも、このタイプの火砕流も、1991年の雲仙普賢岳の噴火で有名になりました。メディアを通じて国民の間でも、海外でも知られるようになりましたし、
「溶岩ドームは 見かけをはるかに上回る火砕流を発生させる 危険なもの」
という認識が火山学者の間でも明らかになり、定着したのもこの事故からです。
その溶岩ドームについての説明のスライドがこちら。
火砕流といえば、日本の多くの方々が真っ先に思い出すのは、1991年の雲仙 普賢岳の噴火です。
皆さんの指定テキストによると、47名の命を奪った雲仙普賢岳の1991年の噴火は、火砕流の規模としては(地球の歴史、つまり数千年以上前の考古学で扱う時代や地質時代に起こり、地層に記録されている火砕流と比べると)かなり小さい規模なのだそうです。
ところが雲仙のこの火砕流は
●世界的に有名な火山学者3名(フランスのモーリス夫妻、アメリカの若きグリッケン博士)を含めた47名の人命をたった一度の火砕流で(正確には火砕流から発生した熱雲サージで)あっという間に奪ってしまった事、
●その事故があまりにも壮絶・無残だった事(最高時速70kmと言われる熱雲サージにより焼死)、
●この事件前後の火砕流の様子が長期間にわたって国内外でテレビで報道された事(それまで世界中のほとんどの人が、いや、火山学者でさえも、実際の火砕流を直接どころかテレビやビデオでも見たことがありませんでした)、
などの理由で、世界的に有名になりました。その後インドネシアの火山噴火など、火砕流がテレビで放映されたり、日本でも浅間山などで小規模の火砕流がつい数年前に発生していますが、特に日本人にとって、火砕流といえば雲仙を、フランス人や 火山学者にとって火砕流の事故といえば モーリス夫妻らの雲仙での事故を という位、追悼と災害への恐れを含めた、強い結びつきが生まれたのです。
確かに、火砕流について何も知らない人(1991年の事故当時は殆どの人々)は上のような写真や映像を見ても、火山の(噴火にしては弱くて噴煙中を作れないような)煙や土砂が崩れて土煙を巻き上げているような様子にしか映らなかったと思います。近くに行っても、距離を取っていれば煙をそんなに吸う事もないし、熱くもないだろうと。ところがそれが大きな間違いなのです。
この火砕流、温度が数百度ありますから(中には1000度に近い物もありますから)、解けた溶岩に近づくのと同じ事(いや、熱風・サージもあるから、それ以上に危険な)事なのですよ。実際、雲仙の溶岩ドームとそれから発生した火砕流を夜に見ると、どちらも真っ赤に解けた溶岩を含んでいる事が解ります(下の写真)。
下の図は、1991年に47名の命を奪った雲仙普賢岳の噴火の様子を模式化したものです(アメリカ航空宇宙局・NASAのサイトより)。
まず普賢岳の山頂よりちょっと下の所へマグマ(解けた溶岩)が上り、火道の出口に溶岩ドームを作ります。この時のマグマの量が少なく、しかも粘性が高いためです。粘性が低ければ、溶岩流となったりしていたでしょう。雲仙のマグマはこの時に限らず、過去からずっと、粘性の低いデイサイト(流紋岩と安山岩の中間)の性質を持っています。
この溶岩ドームが後から(下から上へ)押し出される溶岩によって毎日成長していたのですが、ある日突然、溶岩ドームの一部(少し冷えて固くなった外皮)が崩壊し、中から出た溶岩や火山ガスと崩壊して壊れた溶岩の岩片が混ざり合いながら、火山の斜面を駆け下り、突然 火砕流が発生したのです。突然というのは、当時は火山学者も含め、火砕流というのは噴煙中の崩壊によって、あるいはカルデラ形成時に多量に発生すると考えていたため、溶岩ドームからはそんなに多量には発生しないだろうと甘く見ていたのです。
ところが、この時発生した火砕流は、彼らの予想していた量の10倍もあったのです(下のビデオの元になった、National Geographic 制作の番組からの引用ですが)。
しかもこのタイプの火砕流は(この時、この事故で解ったと言っても過言ではないのですが)火山の斜面・谷を下りながら地面を浸食し、より多くの岩や空気を取り込みながら、重力の影響でどんどん加速します。
そうするうちに、火砕流のうちの軽い成分(ガスや砂サイズの火山灰などの細かい粒子を含んだもの)が本体から上部へ分離し、先ほど斜面を下った時の慣性も働いて、全体として上向き斜め前方へ進むのです。これが灰雲サージや熱雲サージと呼ばれるもので、先述のサージ発生の3つのメカニズムの一つです(以下の図中のAに相当します)。
ただこのサージ、軽いために谷底を駆け下りるだけでなく、ポワ~っと谷からあふれるように、横の方向へも広がっていくのです。火砕流から火山灰を含んだ熱風が、モワ~ンと広がるのではなく、高速で(この雲仙の事故の時は最大時速70キロで)広がったのです。
そうやって、(火砕流が起きても)高台なら安全だと思って、溶岩ドームを観察していた47名の命をあっという間に奪ったのです。
実際には、最初の数分間は火砕流も弱く、その時に避難を始めようとした人たちも居たのですが、その後(溶岩ドームの壊れた部分から次々と火山ガス・火山灰・軽石などが供給されるために)火砕流の規模が急に大きくなり、その時に発生した熱雲サージによって絶命したのです。一連の火砕流は数十分どころか、一時間以上続くこともよくありますし、1991年のピナツボ火山の火砕流は 3時間半も続いて、付近の谷間になんと200メートル以上の火山灰・軽石が溜まったのです。アメリカのクラーク空軍基地が壊滅するはずです。
また、溶岩ドームからは火砕流の他、噴煙も発生し、徐々に高くなり、風下にも広がっていきます。さらに火砕流やサージからも火山灰がガスと一緒に分離して上空に舞い、噴煙になったり、風下にまで火山灰を降らせたりします。
つい最近見つけたのですが、その高台に向かう前のモーリス夫妻の様子が、下のYoutubeのビデオに映っています(National Geographic 制作。もう一人の若い白人男性はグリッケン博士のようです)。後半は、47名の命を奪った(熱雲サージを発生させた)火砕流が麓の村に近づいた時に撮影されたものです。
以下のビデオは雲仙の上記の(モーリス夫妻ら47名を飲み込んだ熱雲サージを発生させた)火砕流が、さらに谷を下って麓の集落を襲おうとしているときの様子、と先のNational Geographic制作のビデオは言っていますが、挙動をみると、これも(熱雲)サージのようです。谷からあふれて、集落を襲おうとしていますが、この流れ、谷の中に縛られず、横にも広がって、山を越えるような挙動をしています。これはサージの特徴です(密度が比較的軽いため)。
とはいえ、火砕流も止まる直前は速度も若干落ち、密度も温度も下がってくるので、サージとの区別が難しいのですが。2000年に三宅島で火砕流が発生し、その末端が人家や車を幾つか飲み込んで、その場で停止した時も「火砕流か?サージか?」という議論が起こりました。この時は人が家・車の中に避難するなどして何とか助かったため、「低温火砕流(?)」という言葉まで使われたほどです。その火砕流が海に突入した地域では物凄い蒸気を上げていましたが・・・。とても低温とは思えませんでした。
運よく、下のビデオのサージ(あるいは弱まった火砕流)はここで止まりますが、とまった後からは火山灰がサージからの熱風と一緒に上空へ巻き上げられて、横に広い噴煙のような暗雲になります。
さて、この火砕流とサージの挙動の違い(相違点)ですが、見掛けが殆ど同じ(動画でないと、静止画だと判定が困難)とはいえ、もともと同じ物なのです。
そこで、この2つを ジキル博士とハイド氏 に 例えて 考えてみましょう。
そうやって、もう一度 雲仙の火砕流の挙動を見直して下さい。
残念ながら雲仙のサージの写真はありませんが、以下の三原山の2000年の噴火の際、海岸部の集落を襲う火砕流の写真を鑑定したところ、一部サージのように見えます(静止画なので、あくまで解釈ですが)。来週みるビデオでは、挙動の違いから ジキル博士(火砕流)か ハイド氏(サージ)かが良く解ります。今週は以下の2枚の写真を観て、目を養っておいて下さい。
火砕流の怖さは雲仙のこの事故で明らかになりましたが(実際は火砕流ではなく、サージが死因だったという事は殆ど報じられていませんし、火砕流に対する誤信は広まったままですが)、火砕流をサージを含めて一緒に考え、広く定義すれば、世の中に出回っている情報をある程度読み解く事が出来ます。
(サージを含むと考えられる)火砕流は 歴史的にみると、日本では何度も起こっており、古文書などにその記録があります。
有名なのは江戸時代の浅間山の噴火で、群馬県にある嬬恋村が火砕流に飲まれて全滅した事などが特に知られています。今は博物館も出来て、当時の火砕流の恐ろしさを後世に伝えようとしています。この噴火で、火砕流の他、その直後の土石流などもあり、少なくとも1500人の命が奪われています。これらの犠牲者、利根川など経由で、ご遺体が多数、とざえもんになって江戸の近くまで流されて来て、被害のあまりの大きさに江戸とその周辺の人々を驚愕させたそうです。
この時の噴火の様子が当時の絵師によって残されており、欧米の火山学の教科書にも引用されています(以下のスライド)。
次にカルデラ崩壊を伴う爆発的噴火を観てみましょう。2000年の三宅島の噴火とカルデラ形成です。指定教科書に詳しく記載されていますので、以下に写真だけ載せておきます。
次に山体崩壊にともなう火砕流・サージ、そして岩なだれ(岩屑流)の発生を観てみましょう。
実はこのブラスト型の噴火、日本でも歴史時代に何度か起きています。例えば、日本史上最大の火山被害は江戸時代後期に雲仙で起きたブラスト型の噴火で、1万5千人が亡くなりました。
「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる大災害ですが、再来週の授業で触れます(教科書に既に書いてあります)。もっと古い時代の物も幾つか見つかっています。
しかしながら、ブラスト型の噴火が世界的に知られるようになったのは、アメリカ北西部にある セントへレンズ山の1980年の大噴火です。この噴火がなぜ有名になったのかというと、その噴火の規模だけではなく、
●その噴火の様子が 実況中継も含め、テレビで毎日のように放送された(世界初)。しかもアメリカ国内だけでなく、日本など海外でも放送され、当時中学生だった私はテレビにかじりついて観ていたのを覚えています。
●アメリカ本土(アメリカ50州のうち、ハワイとアラスカを除く48州)において、近代史まで遡っても、火山の初めての大噴火であった。他の火山が噴火している所も、それまではハワイやアラスカ沖・アリューシャン諸島の火山島の噴火位しか知られて居ませんでした。メキシコ や グァテマラ など、北米大陸の中米部での噴火は19世紀の初め頃から記録されて被害も出ていましたが、アメリカ国民はまさか自国の本土で大きな噴煙を上げる噴火が起こるとは思ってもみませんでした。温泉で有名なイエローストン国立公園の湖の底で火山性の爆発(水蒸気爆発?)が1960年代に起こって、ボートに乗っていた観光客らに死傷者が数名出たらしいですが、私の知る限り、この位しかありません。
●ワシントン富士と呼ばれ、先住民の時代から愛されたセントへレンズ山のあっという間の崩壊。
●(一部の火山学者を除いて)世界中の人たちが 初めて観る、 激しい横殴りの爆風(衝撃波)による 惨状。
というのもあります。観光客・釣り客用の湖畔の宿など、限られた宿泊施設や牧場くらいしか人があまり居ないセントへレンズ山周辺でしたが、カメラマン・火山学者・無線技士・森林伐採者の他、警告を無視して 火山の噴火見物に来ていた人々など 57名が犠牲になりました。しかし、それ以上に数千頭の野生の鹿や家畜の命を奪った事、なぎ倒された森林の木々と山火事、風下(アイダホ州など)への多量の火山灰の降下、来週から学ぶ ラハール(火山関連の 土石流・泥流・熱泥流)の発生など、経済的、環境・社会的にもかなりの被害をもたらしました。
最初の爆発の瞬間は数名のカメラマンに取られていますが、映像が出回るようになったのは、噴火が始まって大分たってからです(Youtubeには英語版ですが、「セントへレンズ山の爆発の瞬間を捉えた」というニセの合成写真による映像も出回っているので、ご注意下さい。上のYoutubeのビデオ:1986年放送の教育番組 は信憑性があります)。このため、この時の噴火の様子についてのいろんなシナリオがあるのですが、以下のスライドの右側にまとめてあるのが欧米の火山の授業などでよく使われており、上記のビデオ(連続写真からの噴火の再現:ビデオの11分10秒あたりから)とも整合性があり、シナリオが一致しています。
まず火山性の大きな地震が起こった後、セントへレンズ山の北側の山腹が多数の大きな岩体となって火砕流から押されるように 吹き飛ばされます。これを「岩なだれ」と呼び、時速160㎞~240㎞で衝撃波(ブラスト)と共に斜面を下るようにして運ばれました。(注:ブラスト blast の直訳は爆発、爆破、爆発に伴う破壊・崩壊ですが、火山学者の間では激しい横殴りの衝撃波の事をさす人が多く、後述のサージとは区別しない人も居ます。横殴りの爆風・サージとその時に起こった山体崩壊をあわせてブラストと呼ぶ人も居ます。この授業ではサージと同義と考えて下さい。)
次に北側斜面(山体崩壊が起こった場所)から噴煙が飛び出し、それが火砕流となって北側斜面を駆け下りましたが、それと同時にこの火砕流から軽い成分がサージとして前方へ分離。このサージは砂粒・小礫サイズの火山灰(あるいは細かな軽石)しか含まないため、火砕流よりも早く移動し、先に運ばれた「岩なだれ」の巨大な岩体よりも更に遠くまで運ばれ、多くの木々をなぎ倒しました。
火砕流・サージが発生したのとほぼ同時に、火口の真上に噴煙柱も立ち上がり、マグマが火山灰・軽石などとして大分出てしまうと、山頂が陥没し、カルデラを形成。しかし、先の岩なだれに伴う山体崩壊による北側斜面の消失もあり、カルデラは馬蹄形をしています(カルデラ形成時に外輪山の一部が地すべりが起こるようにして崩れ、馬蹄形になった、という学者も居ます)。元々あった山の大半(裾野からの高さにして約3分の2、高さにすると元々あった山の山頂から下に500メートルまでに相当分)が吹っ飛んだのです。日本人の方ですが、この セントへレンズ山の Before-After の 大変化の様子を以下のサイトにまとめて下さっています(ただし、リンク先のページの一番最後に埋め込んであるYoutubeの動画はCGで作ったニセモノです)。
http://labaq.com/archives/51789976.html
馬蹄形のカルデラが形成された直ぐ後に、カルデラの中には溶岩ドームが形成されました。
この溶岩ドーム、その後も成長を続け、たまに小規模の噴煙を下の写真のように出していたのですが、2004年には溶岩ドームとしてはかなりの噴煙を出し、その後、2008年に(ひとまずは?)噴火の収束宣言が出されたようです。
このセントへレンズ山の1981年の噴火で、アメリカの火山学者たちが予想していなかったのは、激しい横殴りの爆風、つまりサージです。このサージの発声の仕方は、先に雲仙普賢岳の溶岩ドーム崩壊と火砕流発生の所で学んだ(火砕流から分離して、上方・上向き前方へと動く)サージ(熱雲サージ)の発生の仕方(以下の図のAに相当)とは異なります。
一方、セントへレンズ山の1980年の噴火のサージの場合、発生した火砕流から前方へ分離しています(以下の図のBに相当)。火砕流発生の前に岩なだれがおこり、高速の衝撃波が前方へ突進しましたが、これもサージの一種と見なしたり、「ブラスト」と呼ぶ人もいます(サージと違い、物質が運ばれなくても衝撃波は空気などを伝わって高速で前方へ伝橋し、強い破壊力を持つからです)。これも下図のBに相当します。
また、こういった火砕流発生に伴う山体崩壊と馬蹄形のカルデラの形成ですが、来週DVD鑑賞を通じて学ぶモントセラト島も同じ歴史を持っています。
この島の場合、カルデラ内に出来た溶岩ドームがどんどん成長し、急峻な崖と尖った頂きを持つ大きな火山を成しますが、今度はその溶岩ドームが崩壊し、火砕流発生と山体(ドーム)崩壊を繰り返し、最後にはもとの火山の大きさの高さ約3分の2近くが消失したような状態になってしまいます(下のスライド)。
さて、ここでセントへレンズ山のような 爆発的噴火にともなう「岩なだれ」の話に戻ると、日本にも似たような事例が歴史時代に何度か起きています。例えば、日本史上最大の火山被害は江戸時代後期に雲仙で起きたブラスト型(火砕流、多分サージも伴う 山体崩壊)の噴火で、当時の人口は今よりも大分 少なかったはずなのに、なんと 1万5千人もの方々が 亡くなりました。
「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる大災害ですが、再来週の授業で触れます(教科書に既に書いてあります)。もっと古い時代の物も幾つか見つかっています。
1888年(明治21年)に福島県の会津磐梯山で起きた岩なだれも、明治時代最悪の火山災害です。
この時発生した爆風(ブラスト・サージ)と岩なだれによって、北麓の集落(5村11集落)が埋没するなどの被害を及ぼし、当時の人口が今よりもずっと少なかったとはいえ、477人もの方々が亡くなっています。
最後に爆発的噴火の最後(6・7番目)の形態、水蒸気爆発・マグマ水蒸気爆発を学びましょう。
水蒸気爆発と マグマ水蒸気爆発については、皆さんの教科書の有珠山の章で登場しますが、実はこの形式の噴火、世界中で頻繁に起こっています。有珠山の場合、地下水や湖(洞爺湖)の水がマグマで温められたり、マグマと接触する事で爆発・噴火が起こりましたが、海底めがけて地下からマグマが上昇してきても、これらの爆発は起こります。
例えば、今年の初め頃から話題になっている、小笠原近海の火山の爆発と新しい島の誕生も、この水蒸気爆発→マグマ水蒸気爆発の原理で起こったものです(以下のビデオ)。
その原理は、と言うと、水が温まって蒸発し、気体になると、体積が1000倍以上になる、という単純なものです。この力で爆発が起こるので、それこそ産業革命を起こした蒸気機関の話に似ていますが、そのパワー・破壊力が全然桁違いに違うのです(いや、桁桁桁違いです)。
どういう事かと言うと、この加熱→沸騰→蒸発というのが我々が台所でなべにお湯を沸かしたり料理をする時のように起こると、せいぜい周りの温度・湿度が上がる程度ですし、蒸気機関はその出てくる湯気を(石炭を使う場合は、燃焼によって出来たガスの熱気を)パイプに集めてタービンを回すわけですよね。
ところが、火山の場合、この加熱→沸騰→蒸発というのが、地下の(上の地層による)圧力の非常に高い密閉された所で起こるのです(実際には地下水などがマグマの上昇などによって暖められて起こります)。例えば、圧力鍋に水を半分入れて、延々と熱し続けたらどうなるでしょうか?そう、水が一瞬で水蒸気になる、体積が一気に1000倍になる状況を考えればよいのです。
ある程度までは圧力鍋は持ちこたえますが、ある限界の圧力を超えると、圧力鍋は一気に爆発し、中の超高密度の水蒸気(体積が1000倍になるはずの所を抑圧されていた高熱・高圧力の水蒸気)とともに、蓋も部品もバラバラになって壁を天上を突き刺すように(衝撃波の球体が膨らむように)拡散するはずです。あまり良い例えではありませんが、昨年4月に起きたボストンマラソン爆破事件では、圧力鍋を用いた手作り爆弾が使われ、惨劇となったことを皆さんも覚えていらっしゃると思います。このように、怖い「圧力変化」のとてつもない力が、大量に、しかも火山活動などで起きるのが水蒸気爆発なのです。原発事故(メルトダウン)など、火山噴火以外の時にも起こる事がありますが、原理は基本的に同じです。
水蒸気爆発とマグマ水蒸気爆発の違いですが、水とマグマが直接触れていなければ水蒸気爆発、直接触れればマグマ水蒸気爆発と呼びます。原発の炉心のメルトダウンの際に危惧された水蒸気爆発は、マグマ水蒸気爆発に近いです。
では火山の水蒸気爆発の例として、有珠山の2000年の噴火を見てみましょう。地下水が温まり、水蒸気になって爆発すると、その上にある地層が爆発の衝撃波で一挙に吹き飛ばされるため、地下の爆発地点と地表を最短距離で結ぶ線で(平坦な土地の場合、鉛直方向上向きに)爆破口(火ではなく蒸気ですが、噴火口でもOKです)が出来ます。大抵の場合、きれいな円形状の形をしており、有珠山の2000年の爆発の際に多数見られましたが(上の写真)、似たような円形の噴火口は日本・世界の至る所に見られます。多くの場合、古い火山が水蒸気爆発を起こした痕です。有珠山は2000年以前にも何度も(マグマ)水蒸気爆発を起こしており、すぐ隣にある昭和新山が出来始めたのも、水蒸気爆発がきっかけであり、その時はサージも発生しました(以下の写真)。ただ、この時のサージは洞爺湖めがけて突進したので、最悪の事態は避けられました。
有珠山の2000年の噴火では、円形の噴火口から水蒸気が(後にマグマ水蒸気爆発により火山灰が)上方へ吹き上がっていました(先述の写真を参照)。
この水蒸気爆発ですが、大きな噴火口が出来た場合(例えば上の図のように、地下水層が浅く、噴火口がすり鉢上になった場合)、水蒸気・噴煙が真上に上がるだけでなく、高速の衝撃波として横に地を這うように広がります(上の1944年の昭和新山あたりのサージ発生の写真を参照)。
これはサージの一種で、特にベースサージと呼ばれます。2000年の有珠山の噴火の時には大丈夫でしたが、有珠山と付近の洞爺湖が明治に噴火した時には、その悲惨な被害状況から、大規模な ベースサージが発生したと考えられています。下図のサージ発生3大メカニズムのうちの、最後のCに相当します。
このベースサージ (base surge) ですが、もともと原子爆弾の爆発実験をしていた際に地面(空間の底、base)を這うような衝撃波(surge)が見られたために付けられた名前です。下の写真はアメリカがネバダの砂漠で行った核実験の写真ですが、ベースサージ水蒸気爆発か核爆発かの違いはあるにせよ、力学的な原理は非常によく似ています。「風の谷のナウシカ」のマンガ版(全7巻)を読んだ事のある人は、ナウシカたちが終盤でベースサージらしき衝撃波に遭遇するシーンを思い出すかも知れません。その漫画を描いた宮崎駿さんは、ちゃんと地を這う衝撃波として描いていました(巨神兵が引き起こした大爆発という事もあり、ベースサージという用語は使っていませんでしたが。多分原爆の地上での爆発の様子を熟知していたのでしょうね。お父様は大戦中兵器を作っていたらしいですし、駿さん自身も兵器に詳しいですし)。
核兵器どころか 普通の爆薬でも、ある程度の量があれば 衝撃波を発生させます(以下の動画参照)。
ちなみに、以下の写真は何でしょう?
それこそ原爆や水爆実験の写真のように見えますが、実はこれ、火山の水蒸気爆発と、ベースサージ発生の瞬間を捕らえたものです。
その火山というのが、フィリピンのマニラ近くにあるタール火山というカルデラ湖。1931年にも水蒸気爆発とベースサージを起こしていますが、この写真は1961年の水蒸気爆発で発生したベースサージを捕らえたもの。その時も湖の水がカルデラ湖の中央(火丘の島)あたりで沸騰して水蒸気爆発が起こり、ベースサージが湖の中央から外側へ輪のように広がり、ベースサージのもたらした衝撃波と希薄な火山灰によって、周りの木々も家屋もなぎ倒されました。この時湖のほとりの漁村を襲ったベースサージは低温で、焼け跡が無かったため、100度位、あるいは100度以下だったと考えられていますが、衝撃波はかなり強く、セントへレンズ山で見たような根本からなぎ倒されたり吹き飛ばされた木々が散乱していました。日本で明治時代に洞爺湖で起こったとされるベースサージは、これに近いと思います(温度に関しては、もっと高かったかもしれませんが)。
というわけで、皆さん、火山噴火の多様性について、かなりの知識を得たと思います。火山の噴火って1~2通り、単純じゃないんですよ(前回の基礎編では「火山噴火の様式は極論を言えば2つしかない、と言っちゃいましたが」)。同じ火山でも、一連の噴火でも、噴火様式が変化する事も頻繁にあります。
実際にこれら様々な噴火様式を理解するには(現場で見ると危ないですから)動画を見て体感するのが一番です。
そこで来週の授業では、カリブ海に浮かぶモントセラト島の様々な噴火形態をDVDで観ます。英語ですので(私が時々日本語で解説しますが)、今日の授業を復習しておいて下さい。