8.地層を読み解く

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(お知らせ) 中間試験の範囲について:

 授業の第1回(イントロ、宇宙・地球の歴史1)~第7回(堆積環境2:砂漠・サンゴ礁、etc.)までにします。

 今週の分を期末試験に回す理由ですが、

(1)講義7回分を 中間試験の範囲にすると、期末試験の範囲も講義7回分になる。

(2)第2回~第4回(地球史と生物・人類の進化)と第5回(プレート・テクトニクス)は 覚えたり理解する量が他の回よりも多い。

(3)第8回(今週)の講義を中間試験に入れると、じっく復習したり復習問題を解く時間と中間試験の準備時間が重なってしまう。

(4)第10回(地震)以降は災害の事例のドキュメンタリー風な引用(ケース・スタディー)が多くなるので、理解しやすく、覚える量が比較的少ない。

などです。また、今週の授業で学ぶ褶曲・断層(特に断層)は次回の授業(地震)と強く関連していますので、今回の授業については 中間試験後に復習すると良いでしょう1

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 それでは今週の授業のWeb版です。

 地層はどうやって出来るのでしょうか?

 

 地層は平野や海底・湖底などに積もるだけではなく、その後、その上に積もった土砂の荷重によって脱水・圧縮(緻密化)・化学変化などが起こり、固まって石(堆積岩)になります。この地下での固化・石化の事を続成作用と呼びます。

 

 例えば、砂粒は続成作用により、砂岩になります。

 

 化学的続成作用の例↓

 砂粒(Grain, 以下の写真では殆どが石英)の間にセメントが沈殿し、砂粒同士が接着剤でくっ付くように固まります。セメントは地下水にイオンなどとして解けていた(元)鉱物(ミネラル)が沈殿・晶出したものです。雨水は弱酸性で、地下水も弱酸性気味なので、カルシウム塩などを溶かしやすく、それから濃度・温度・圧力が変化するなどして沈殿・晶出した方解石(CaCO3:先週 石灰岩を作る鉱物として学習)が典型例なセメントです。これが地下深い所、海岸付近、海底下など、アルカリ性気味の地下水だと、シリカ(二酸化ケイ素・SiO2:石英に近い物)が 溶けやすくなるため、濃度・温度・圧力が変化すると 晶出により シリカ のセメントが出来易くなります。

 

 それでは地層を観てみましょう。日本の露頭でも見えますが、壮観なのはアメリカ中西部の乾燥地帯の物です。中でも有名なのは、グランドキャニオン国立公園ですね。

 

 グランドキャニオンもいいですが、20年位前に近くに(石炭を燃やす)火力発電所が出来て大気汚染のため、霞がかかって視界が悪く、遠くまで地層がくっきり見渡せるのは年に4日位(雨上がりの後など)しかないそうです。このため、私がお勧めするのは、ユタ州東部に隣接する3つの国立公園・州立公園です(以下の3か所ともに、入口は車で30分以内ですが、各国立公園に最低1日、急ぎ足でも半日は使って観たほうが良いです)。

 

● キャニオンランズ国立公園 (Canyonlands National Park)←一番のおススメ

● アーチーズ国立公園 (Archies National Park)

● デッドホースポイント(ユタ)州立公園 (Dead Horse Point Utah State Park)

 

 ハリウッド映画の砂漠・荒野のシーンは西部劇からスパイ物・アクション映画、遙か遠い惑星の荒涼地帯のシーンまで ここで撮影されており、拠点の町、Moab は観光客やアウトドア・スポーツ(登山・カヤック・マウンテンバイクなど)のメッカとして有名で、レストランお土産屋なども充実しています。化石やアクセサリーも沢山売っており、安宿(Motel)やスーパーも充実しています。

 

 四輪駆動の車やジープを借りて、荒野を駆け抜けたいのであれば、デッドホースポイント州立公園がお勧めです。土煙を上げながらのドライブは、まさにワイルドで、アメリカの自然・地層の壮大なスケールを動きながら実感できます。(キャニオンランズ国立公園も絶景ですが、舗装道路もと観光客も比較的多く、不毛の地を体験したいという意味では落ちますが、空気・天候の状態が良いため、それでもグランドキャニオンよりは断然眺めが良く、地層・崖・谷の大きさに圧巻されます)。

 

 赤色を中心とした鮮やかなアメリカ中西部の地層ですが、こういったカラフルな地層が大きな景観を作っている所は国立公園や州立公園になっています。中生代に大陸平原に(川や風などによって)堆積した砂の表面やセメント中に含まれる鉄分が酸化して赤い色(鉄さびが出来るのと同じ原理)を示すのです。しかし、これらの国立公園以外では、以下の写真のように地味な(?)色をした地層が殆どです。日本であろうと、ヨーロッパであろうと、こういった灰色・茶色系の地層が多いです。

 

 以下の写真のように 地層が水平ではなく、急勾配で露出している時って、どのような場合でしょうか?

 

 上のビデオ数点を観れば、断層や褶曲の形成過程について理解できると思いますが、実際に野外で断層や褶曲を観たい、自分でも(台所で出来るような)簡単な実験で作ってみたい、という方は、NHK Eテレ 高校講座・地学基礎 「 第17回 第2編 地球の変遷と生物の進化 変動を記録する地層 」をご覧になる事をお勧めします。三浦半島の南端にある美しい城ケ島の海岸が登場し、褶曲・断層・不整合など学べますし、いろんなサイトに城ケ島の地質ガイドが載っていますので、観光も兼ねて、城ケ島へ実際に行ってみるのも良いと思います(安全には十分注意して下さい)。また、この回では 授業の第1回で学んだ 変成岩の基礎も登場します。


 次に地層の重なり方について見てみましょう。

 

 ここで登場するのが、高校地学でも一番重要な(最初の方で習う)「地層塁重の法則」です。この授業の指定教科書でも説明されています。

 

 厳密にいうと、必ず成立するのは第3法則だけなので、第3法則のみを指して「地層塁重の法則」と呼ぶ事があります。

 

 上の図のグランドキャニオンの大露頭でも地層塁重の(第3)法則は必ず成り立ちますが、以下のように地球史上の全ての地層が重なり合っているわけではありません。

 

 長い歴史の間には、プレートの運動・地殻変動などにより、地盤は隆起して風化・浸食されたり、プレートごと他のプレートの下に沈み込んで消失したりするので、全ての地層が保存されるわけではないのです。以下のグランドキャニオンの断面図でも、地層が不連続で重なっている事が解ります。

 

 例えば、上の図ではカンブリア紀の上にあるはずのオルドビス紀とシルル紀の地層が欠如していますね。よく見るとカンブリア紀の上下の地層が浸食された(起伏のある)面があり、そこを埋める形で上の(デボン紀以降の)地層が重なっています。このような不連続面を不整合と呼び、地盤の隆起・浸食などによって形成されます(以下の図)。

 

 不整合には見掛け上、傾斜不整合平行不整合の2つがあります。

 

 では次に、地層(堆積岩)の1つ1つから地球の過去について どのような情報が得られるのかを考えてみましょう。


 堆積構造を知る上で絶好例なのに、上のNHK地学基礎や教科書の多くにきちんと取り上げられていないのが斜交層理(クロスベッド)です。

 

 風上の緩傾斜面を登ってきた砂粒が、風下の急斜面を雪崩のように転げ落ちるのを繰り返すことによって、砂丘は砂漠の中をゆっくりと移動するのです。普段は殆ど動きませんが、砂嵐などの時にこの移動が数メートル~数百メートル規模で起こり、それが数年、数十年、数百年という時間で考えると、砂丘は数キロどころか(サハラのような大きな砂漠だと)数百キロも移動する事になるのです。上の写真は高さ2~3m程度の小さな砂丘群を風下(写真の奥)から風上(手前)へ向かって見たものです。風下側の急斜面の砂なだれの様子がよく解ります。

 

 上下の写真のように、砂丘は風上(左)斜面が緩く、風下(右)が急傾斜です。

 

 したがって、以下の図(上半分)のように、砂丘(デューン)の風上は少しずつ侵食され、風下の急斜面上では堆積が起こってデューンが成長(正確には移動:風上は成長どころか侵食されるため)する様子を示しています。これが地層中に保存されたのが、斜交層理(クロスベッド)で、高さが砂丘の物だと数10cmどころか数m、中には数十mの物もあります(以下の図の下半分の写真。グランドキャニオン近くの露頭の物です)。

 

 このデューンですが、高さ数cm~数十cmの物であれば、川や海など水の中でも(上述の、風と同じような原理で)形成されます(現在の大陸棚の上など、水中で見つかっているデューンは高さが最大でも6m程度です)。以下のビデオは水槽の中でデューンを作った物。断面に斜交層理(クロスベッド)が出来ているのが見えますね。

 

 砂の多い川底や海底にもデューンは見られますが、高さは数センチ(一般に5cm以上)から 数十cm 程度 で、風が作った物(風成)より小さいです。潮の満ち引きの激しい場所では、潮が引いた時にデューンが見える事があります。

 

 あと、以下の写真のように、砂丘の上に洗濯板のような縞模様が付いているのを見たことがあると思いますが、風紋(wind ripple)と呼ばれるもので、砂嵐でなくとも、弱い風で日常的に砂丘の表面に形成されます。海岸のビーチの砂の上にもよく発達します。

 

 下の写真が 風紋(wind ripple) の 拡大図ですが、断面に見えるのは斜交層理(クロスベッド)です。風紋は高さが 1cm 位(大きくても2~3cm程度)であるのに対し、デューンも斜交層理も高さが最低でも 5 cm 以上はあります(上述の小さな砂丘群など)。こうやって、大きさからもデューンや斜交層理が判別できるのですが、日本の高校地学の教科書には デューン・斜交層理と ripple(リップル)・斜交葉理(後述)をごちゃ混ぜにして、全て「斜交葉理である」と誤記述をしている物が後を絶ちません。先述のNHKのサイトもそうでしたね。その誤記述が起こった理由の一つは、日本の高校どころか大学では砂漠の堆積環境どころか砂漠についても「日本には砂漠がない」といった理由で(これも誤信ですが)、教えていない所が大半だからだと思います。砂丘・デューンは堆積構造を学ぶのに絶好例であるだけでなく、水不足・環境資源問題など、我々の生活・将来密接に関連している事は先週学んだ通りです(7月にさらに詳しく学びます)。

 

 誤信のもう一つの理由は(これは地球科学の分野、理系分野に限らず)日本人の英語力の低さ、誤訳が後を絶たない、という問題が根底にあります。

 

 先述のNHKのサイトに登場した(高校地学で必ず習う)リップルですが、リップ(リップマーク)と誤表記してありました。元々の英語は Ripple という単語です。リップマークという単語はありませんし、リップ (rip)は「裂ける」という意味なので、リップマークだと、「裂け目」「裂けた跡」という全く別の意味になってしまいます。lip(唇のリップ)だとさらに別の意味。

 

http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/chigakukiso/archive/resume015.html

 

 日本人には発音しにくいせいか、カタカナ表記も定まっていないのがRippleですが、地球科学の用語以前に、非常に重要な(頻出の)英単語です。

 

Ripple (リップル・リプル)とは、もともと水面の「さざ波」(表面波)の事ですが、

似た形をした物にも 名詞(動詞・形容詞なども)として使います。

 

良く使うのは、割れた腹筋の事や、アメリカの ポテトチップ(Pringles) の形を指します。

 

過去分詞で rippled というと、(腹筋の)割れた、という意味になります。

 

例: Rippled abs (腹筋の発達した腹部)

 

また、「些細な事」という意味にも使います。

 

例: Ripple effect (波及効果:特に、当初は些細な事と思っていたら、実は伝わった別の場所で大きな効果を呼んでいた、という時に使います。アメリカの景気が低迷し始めると、日本経済にはもっと大きな影響が出る、といった具合。しかし、さざ波【Ripple】が大波になる事は まずあり得ませんので、空想起源の用語です。しかし、カオス理論など、数学や物理の理論力学の世界では バタフライ効果と呼ばれており、些細なことがきっかけで、大きな物が芋ツル式にどんどん崩れたりする事はよくあるそうです)。

 

 腹筋に関しては、Ripple の代わりに、Six pack という言葉も よく使います(アメリカなど、缶ビール や 缶コーラは スーパーでは6個単位で結んで売られている事が多く、これを Six Pack と 呼びます。Six Pack が 理想の腹筋の形に似ているため、また ripple よりも 自分の腹筋は大きい、という事を誇示するためか、「Six Packの腹筋を目指せ!」という フィットネス系の雑誌、ダイエットの本、広告などが溢れています)。実際に缶ビール並みの大きさの腹筋を持っていたら、化け物だと思いますが(該当しそうなのは 全盛期の シュワちゃん ぐらいでしょうが)。

 

 しかし、Six pack という表現を逆手に取って、「ビール缶6本分のお腹まわり」と解釈し、ビール飲みを肯定するアメリカ人も商品も出回っていますから、やはり ripple というのが 割れた腹筋を指すのに一番適切な表現だと思います。

 

 この ripple ですが、デューン同様、砂丘の上でも水の底にも弱い流れで直ぐに形成されます。

 

 斜交層理(デューン起源)や斜交料理(リップル起源)は堆積環境(場所、流れの速さ、向き)を判定する手がかりを与えてくれるだけではありません。露頭で観察される地層が水平のままか、それとも地殻変動などにより傾いてしまったのかの判定に使う事ができるのです。以下の写真ではリップルマークで覆われた岩が垂直にそびえ立っています。リップル(ripple)は砂の表面にほぼ水平に発達しますから、以下の写真の露頭は、最初水平に堆積した露頭が、地殻変動(褶曲など)により90°も傾いてしまった、という事を示しています。

 

 こういった地層の傾きの判別どころか、地層の上下判定というのは露頭の調査でとても重要です。なぜかというと、最初は水平に堆積した地層も、のちの地殻変動などで、上下が逆転してしまう事があるからです。以下の写真のような造山帯(特にプレートの沈み込み帯や、大陸同士がぶつかって地層が大きく変形する場所)では褶曲がはったつし、中には傾きが90°どころか、180℃ひっくり返ってしまう場合があるからです(以下の写真2点)。

 

 例えば下の写真。クネクネとかなり変形した褶曲の前に立っているオジサンが居ますが、オジサンの背後にある地層は、果たして上に行くほど新しくなるのか(オジサンの左側の露頭だけを見るとそう思えてしまいます)、それとも上に行くほど古くなるのか(写真の右下に写っている地層だけが見えていたとしたら、普通に、下から上に若くなる、と判断しそうですが、その地層を写真の左に追っていくと、地層が180°以上曲げれれているので、写真の左側では、上から下へ行くほど地層が若くなる(下から上に行くほど地層が古くなる)という事になってしまうのです。

 

 そんな時、地層の上下判定に役立つのが、リップルなどの堆積構造のほか、級化層理と呼ばれる砂・礫の粒度分布があります。センター試験を含め、大学入試にも頻繁に登場しますので、教職志望の方は特に覚えておいて下さい(この授業の指定教科書、上記のNHKのサイトにも登場します)。

 

  ここまで学んだ地層の基礎(層理面、堆積構造、級化層理など)については、NHK Eテレ 高校講座 地学基礎 の 「第15回 第2編 地球の変遷と生物の進化 地層の形成」に、横須賀や三浦半島に見られる地層の例を紹介しながら、動画で上手くまとめてありますので、お勧めです。


 では、堆積環境を読み取る手がかりとして、次に化石を見てみましょう。

 

 化石が堆積環境の手掛かりになる事は自明ですが、「シダなら(湿気のある)陸上」、「回遊魚なら海」と言った程度では(つまり、いろんな環境にまたがって広く分布する動植物の化石は)堆積環境を特定するのに あまり重要な手掛かりを与えてくれません。

 

 そこで重要なのが、中学の理科でも習った「示相化石」です。以下のスライドにまとめてますが、思い出しましたか?

 

 示相化石の絶好例はサンゴ礁(の化石)です。浅くて綺麗な、光のあたる暖かい海にしか生息できませんからね。

 

 あと、示相化石として重要な条件は、現地性であるかどうかという事です。例えば、以下のニュースを聞いたら、あなたは信じますか?

 

 もちろん、これは誤報かふざけた(お笑い番組なら許せる)ニュースになってしまいますが、こういった誤報を(意図的に?)行った方は最近でも大勢居ます。なかでも有名なのは、数年前にノーベル平和賞を受賞した、(アメリカ元副大統領の)アル・ゴア氏です。誤報どころか嘘がバレて、ゴア氏もノーベル平和賞自体も大批判されてしまいました。

 

 イギリスの教育委員会などから彼の著書・ドキュメンタリー映画「不都合な真実」が訴えられ、裁判所が「少なくとも9つの明らかな嘘がある」という判決を下したのが、ノーベル平和賞の受賞者が発表された前日でした。判決では、イギリスの学校で彼の映画を上映するときなど、「9つの嘘すべてについて説明してからでないと、映画を見せてはいけない。」という条件が付きました。

 

 ここで先述の「現地性」に関連するのはアルゴア氏の「北極付近の海の真ん中で白熊が溺れて死んでいるのが発見された。1日に50kmも泳げる白熊が沖に向かって泳ぎだし、ふと休もうと思って周りを見てみると、氷が殆ど溶けている。やっと見つけた小さな氷も自分の体重を支えるほど大きなものではなく、白熊は力尽き、溺れて死んでしまう。」というお涙頂戴のアニメがドキュメンタリー映画の中に登場したのです。もし、白熊が海の真ん中で発見されたとしても、陸地で何らかの理由で死んだ物が、洪水や川などによって沖へ流された、という可能性の方が圧倒的に高いのです(台風の後など、ウリ坊・イノシシの子供や野犬など、死んだ動物の遺体が川に浮いて流されているのを中学・高校の頃の私は堤防や橋の上から何度か見かけたことがあります)。

 

 このように、骨や貝、葉などの化石は、遺体が(一部、生息中にも)生息域以外の環境に流されてしまうので、必ずしも有用ではないのです。サンゴ礁は有用な示準化石ですが、サンゴの破片の場合、流されてしまいますから、サンゴの欠片だけが見つかっても、示準化石としては使えません(手掛かりが全くないよりはマシですが)。植物の場合も、大きな木の根や草の根が水平な地層を分断するように大きく根を張っている物がそのまま化石になっていれば、現地性のものである、として使えますし、貝やプランクトンの一部には底生(岩などに貼りついて生活している物)もありますから、そういった現地性の物を注意深く選んでいれば、全く使えないわけではありません。

 

 しかし、見ただけで「現地性である」と解る化石があります。それが生痕化石です。貝・ゴカイ・甲殻類などの巣穴、恐竜を含む爬虫類・哺乳類などの足跡、木の根の痕なども生痕化石です。以下はThalassinoidesと呼ばれる巣穴です。

 

 これは海岸付近に住む穴ジャコ(Ghost Shrimpというエビの仲間)が作った巣穴です。現世の物は以下の写真です(海洋生物学の研究で有名な モントレー水族館にて撮影。サンフランシスコから車で2時間ぐらい南に行った海岸にあります)。

 

 では次に、堆積の時期について学びたいところですが、堆積環境の推定であろうと、堆積の時期の推定であろうと、行わなくてはならない作業があります。それが「地層の対比」です。

 

 地層の対比の目的は主に2つあります。

 

 なぜ地層の対比を行わなくてはならないのか、という根本的な理由がこちら。

 

 以下の図のように、化石を使った対比(地層同定の法則)がよく使われます(実際は、砂岩か泥岩か など 堆積岩の種類や、斜交層理などの堆積構造も使います)。以下の図は、古生代末(石炭紀あたり)から中生代初頭(トリアス紀・三畳紀)の地層と化石を使った例です。この場合、生育期間の短かった爬虫類の化石が対比には最も適した化石となります。

 

 こういった生育期間(ここでは個体ではなく、地球上に種として存在していた期間)の短い生物の化石が、さらに広範囲に分布する場合、対比が更に行いやすくなります。このような条件を満たす有用な化石を、示準化石と呼びます。これも中学理科で学びます。覚えてますか? 大学生レベルですが、以下の図を見て思い出して下さい。中でも有名なのは白亜紀のアンモナイトで、進化のスピード(特に縫合線と呼ばれる模様の変化)が早く、50万年経つと、形や縫合線の模様が明確に変化しているため、長い白亜紀を細分して対比を行うのに広く用いられています。

 

 一般の方にも人気のある化石ですが、そうやって考えてみると、地球の歴史を紐解くのに有用な化石(特に示準化石)というのは極一部なのです。例えば、以下の図は化石マニア(素人を含む)に人気のある化石を集めた物ですが、示準化石として広域の対比に使えるのは、図の中央上の写真の三葉虫と右列のアンモナイトだけです。

 

 あのグランドキャニオンでさえも、地層は不連続で重なっていましたが、ユタ州南東部のザイオン国立公園(Zion National Park)やブライスキャニオン国立公園(Bryce Canyon National Park)の地層と対比する事により、先カンブリア紀から 新生代 (第三紀)までの地層の重なり方や広がり方を把握する事ができるのです(以下の図)。

 

 そうやって古い時代から新しい時代までの主な化石と重なり方が欧米を中心に研究され、確立されたのが地質年代(地質年代表)なのです(以下の図)。これは、後述する相対年代の手法によって完成されたものです。

 

 対比には化石の他、火山灰なども用いられ、鍵層と呼ばれています。火山噴火は地球の歴史に比べれば一瞬の出来事であり、広い地域に分布し、その色の(上下の地層との)違いから、判定しやすいため、鍵層として使えるのです。日本は火山灰層が多いので、鍵層として多数用いられています。以下はアイスランドの鍵層(露頭写真)とイタリアのエトナ火山の噴火の例です(別々の時期に起こった物なので、同一の鍵層ではありませんが)。

 

  地層の対比、示準化石、示相化石については、NHK Eテレ 高校講座 地学基礎 の 「 第16回 第2編 地球の変遷と生物の進化 環境変化を記録する地層」に、山口県秋吉台の石灰岩などの例を紹介しながら、動画で上手くまとめてあります。簡略化され過ぎ、と言ってよいほど単純化されていますが、実例が見れるという点で、お勧めです。


 では地層の堆積した時期について見てみましょう。

 

 示準化石・相対年代については対比の所で一緒に学びましたので、ここではいきなり絶対年代(放射年代)について見てみます。

 

 年代測定法・放射年代に関しては、後期の地学概論Bで詳しく学びます。

 

 ここでは炭素14法について見てみましょう(指定教科書で詳しく説明されていますので、きちんと読んでおいて下さい)。炭素14(炭素同位体のうち、質量数が14の物)は半減期が 5,730年であり、今から数千年前~1万数千年前の地層や遺物(遺骸・考古学の遺跡・遺品)の年代決定によく用いられます。最大4万年前まで解るという主張もありますが、信頼度の高いのは、約1万数千年前の物までです。ウランなど、原子数の大きな放射性元素を使うと数億年~数十億年前の年代が解りますが、半減期が数億年と長すぎるため、若い地層(最近数万年どころか数千万年前)の地層の年代決定には不向きです。

 

 また、4年前の福島原発事故のあと、放射性物質の半減期についてメディアでよく取り上げられており、不安になりますが、原発事故で発生した放射性物質の多くは数日から数十年の半減期をもっており、地層の年代決定に使う物質の半減期よりもはるかに短い物です。しかし、人間の寿命に比べると、とても長い物を含む(つまり、人間の一生から考えると、放射線の量がなかなか減らない危険な放射性物質が存在する)という事ですので、以下のサイトの短い説明文を一読される事をお勧めします。

 

http://www.pref.saitama.lg.jp/site/houshasen/eikyo3-3.html

 

 あと、若い地層だけでなく、考古学など、過去4千年内の地層や遺物・遺骸・美術品などの年代鑑定に使われるのが、木の年輪です。年輪は越した年の数だけでなく、その厚さから気候の状態(温度や湿潤・乾燥度など)も記録するため、ある地域のいろんな時代の木材の年輪の厚さのパターンから、過去数百年~数千年の年輪の成長パターンから年代決定のデータベース(時間の物差し)を作る事が出来ます(以下の図参照)。

 

 そうやって、最近有名になったのが、(のだめカンタービレの)三木清良さん、じゃなかった バイオリンの名器、ストラディバリウス の秘密の 年輪研究による解明です。過去数百年、色んな職人・科学者がストラディバリウスと同じような名器を作ろうとしては失敗の連続。同じイタリア北部クレモナの町周辺の木やアルプス周辺の木(カエデなど)を使っても失敗ばかり。考古学者のチームが現地の当時の木材を研究したところ、

 

1.名器の生まれた時期(ストラディバリウスの黄金期と呼ばれる十数年)には気候が寒く、年輪が詰まって、楽器の音が響きやすい木質の理想的な生体構造になっている事

 

2.ストラディバリウスの バイオリン の名器は 高山の麓の 高度の低い木が使われ、ビオラ の名器は 高山の山麓(中高度)の木が使われている事

 

などが解ったのです。

 

 ストラディバリウスの謎に関しては、これらの名器を作った 匠の Antonio Stravdivari 氏の 評価よりも、バイオリン表面の ニスの塗り方が違うとか、現在の楽器職人さんやメーカーを中心にいろんな説や誤信どころか中には営利追求のデマ・宣伝まで流れていますが、ここに科学のメスが入った事により、誤報の多くが淘汰・排除されたというわけですね。

メモ: * は入力必須項目です


今週 の おまけ


 以下はちょっと古い番組のビデオですが、地質学者が様々な化石をどうやって採集・研究し、太古の昔の様子を頭の中で再構築しているのかが良く解ります。化石マニアは必見!